初音ミクオリジナル曲『MPがたりない!』のこた゛わりとNTミクさんについて
はし゛めに
最初に断っておきますが、この記事のタイトルなどで濁点が一文字として分離しているのはミスではないです。レトロゲームの文脈で出てくるお約束みたいなものです。
以前に投稿した動画はカバー曲でしたが、「初音ミクNT」のオリジナル曲としては今回が初投稿となります。もちろん気合を入れて制作した曲なので、こだわりポイントなんかを解説していきたいと思います。
NTミクさんに うたってもらうということ
そもそも「初音ミクNT」とは何なのでしょうか。少し説明します。今までのミクさんと決定的に異なるのは「VOCALOIDではない」ということです。
これまで「初音ミク」はVOCALOIDライブラリとして発売されてきました。「初音ミク」自体はクリプトン・フューチャー・メディアの製品なのですが、その心臓部である音声合成技術はヤマハが担っているのです。ところが「初音ミクNT」はその音声合成部分もクリプトンで開発されています。これが決定的に違う部分です。
そのNTミクさんがうちに来て初めて歌ってもらったのが、2020年6月にアップロードした『HIRARI (for NT)』です。
これは以前に作った曲のカバー版になるのですが、プロトタイプ版がリリースされた初日、まずはVOCALOID用歌唱ファイルをそのままNTミクさんに渡して歌ってもらいました。率直な感想としては、従来のミクさんとそこまで大きな違いは感じられず、このままではカバーとして投稿する意味はないと思いました。
ここで話が逸れますが、NTミクさんが話題になる一方で「NEUTRINO」の登場が音声合成界隈で話題になりました。本物の歌手に歌ってもらっているような歌声は、私にとって衝撃でした。さらには「さとうささら」でお馴染み「CeVIO」も、新バージョンが開発されているとのことで話題になりました。NTミクさんも含め、VOCALOID以来の歌唱合成分野での変革の時期が来ているのかな、と個人的に感じています。
そんな背景もあり、「VOCALOID」であるV4Xミクさんとは明確に方向性を変えることにしました。今までは「いかにVOCALOIDらしさを残しつつ、自然な歌い方に仕上げるか」という方針で調声をやっていましたが、NTミクさんには「本物の歌手を模倣しつつも、いかにミクさんらしさを出すか」という方向に切り替えることにしました。せっかく別のミクさんに歌ってもらうからには新しいことをやろう、と決意をした次第です。
具体的にどんなことをやっているのかというと、Piapro Studio NT(初音ミクNT付属の専用エディター)に実装された直接ピッチカーブを編集する機能を使い、大幅にピッチを弄っています。従来のVOCALOIDらしい歌い方だと正確なピッチで終始歌い上げますが、歌いだし・伸ばし・歌い終わりであえてピッチを外すことで本物の歌手に歌い方を近づけています。
また、従来のミクさんでは困難だった「喋り」にも初挑戦してもらいました。これもピッチカーブを編集する機能を活用し、自然なイントネーションを心がけました。「喋り」も新しいミクさんならではの要素として、この楽曲には欠かせない存在だと思っています。
余談ですが、ラスサビ前の「レベルアップ!」は完成直前まで全く入っていませんでしたが、
遊んでいたゲームのキャラクターボイスを聴いてふと思いつき、急遽入れてみました。ゲームを意識した世界観にマッチしていると思ったのですが、どうでしょうか?
はし゛めは いちまいの らくか゛き
実はこの曲、3年くらい前にはすでに私の頭の中にアイディアとしてあったのですが、他にも作りたい曲がいっぱいあり、頭の中では大渋滞していました。これまで投稿してきた曲の半数以上は、数年前からあるアイディアを形にしているだけに過ぎないのです。それらを交通整理していく中で、ようやくスポットが当たったのがこの曲です。
以前からずっと形にしたいと思っていたこの作品ですが、ようやく形となったのが2018年に投稿した1枚の落書きでした。
かなり粗い絵なので念のため説明しておきますと、ローブを纏い、三角帽子を被り、杖を持った魔法使いのミクさんです。曲だと作るのに時間はかかりますが、落書きであれば形に出来ると思い、投稿したのがこれでした。
なぜNTミクさん初のオリジナル曲にこれを選んだのかというと、「今までのミクさんとは違うことをしたい」というのがあったからです。今までの私の作品たちには、「ファンタジー世界のミクさん」なんて存在していませんでした。
「新しいミクさんと新しいことをしたい」と「今まで私になかった世界観の楽曲」が見事に重なった、というのがこの曲を選んだ大きな理由です。
かしは まほうつかいを テーマに
魔法使いをテーマにするというのは最初から決まっていました。魔法使いキャラって、(ガンダルフさんやハリーさんは置いておくとして)男の子より女の子が担当するイメージが私の中で強かったからです。アニメでは魔法少女ものとかも人気がありますよね。仮に「女の子がなりたいフィクション職業ランキング」があったら、上位に入るんじゃないでしょうか。私も魔法使いキャラ、好きです。
当初は魔法少女アニメのイメージで歌詞を書いてましたが、調べるうちに魔法使いと魔法少女は厳密には異なることを知りました。(魔法使いは生まれつき、魔法少女は後天的、というのが一般的のようです)
そこで、正統派ファンタジーでよく見る魔法使いのイメージをベースに、魔法少女の作品が持つポップさを織り交ぜ、ファンタジー世界ながらも明るい雰囲気を持った独特の世界観に仕上げました。魔法少女のイメージから少しアニソンも意識しておりまして、曲中に入るセリフはこの影響だったりします。
歌詞を書き始めたときには入っていなかったのですが、日本では「ファンタジー=ゲーム」というくらい結びつきが強いので、ゲーム用語も入れてみることにしました。その結果、はちゃめちゃで楽しい歌詞に仕上がり、明るい曲調とも良く合うと思いました。
さらに歌詞には現実世界なワードも含まれたりもしますが、実はファンタジー作品って現実と地続きだったりすることも多かったりするのです。これは後付けの理由ですが、「カードでお買い物」「お弁当をホカホカにする」・・・お店のスタッフさんが何気なくやっていることは魔法みたいにすごいことで、身近な魔法使いの皆さんに感謝しましょう、という思いが込められているのかもしれませんね。
アレンシ゛は サウント゛トラックみたく
これは私の偏見ですが、日本では「ファンタジー=オーケストラ」のイメージが定着していると思っています。なのでオーケストラ風で行こう、というのは最初から決定していました。しかし王道なオーケストラ曲を書いたとして、ポップな歌詞と上手くマッチしない気がしたので、「ゲーム音楽らしい」要素を加えていくことにしました。
まずはロック。
日本のゲーム作品だと、戦闘BGMなどで使用されるロックは王道ですよね。ポップな歌詞とも相性が良い上にオーケストラとも親和性が高いので、この組み合わせも王道ではないでしょうか。
そしてチップチューン。いわゆる「ピコピコ」ですね。
比較的高い年齢層の方々の間ではこの音がゲーム音楽の王道というイメージが強いそうですが、この音にに馴染みがない無い層にとっては逆に新しさを感じさせるサウンドですよね。
オーケストラ、ロック、チップチューン・・・とにかくゲームらしい音楽を贅沢に盛り込みましたが、ある世代には懐かしい、ある世代には新しい、そんな曲が出来上がったんじゃないかと思います。
少しこぼれ話ですが今回から楽曲の制作環境が変わりまして、具体的に言うと、PCの性能が飛躍的に上がり、以前では考えられないくらい豪華な音使いをしています。打ち込み用トラックは約40トラック、音声出力は約50チャンネルという数です。もちろん、楽曲の良し悪しは音の数で決まるものではないですが、この新しい環境をフルに活用したからこそ完成した曲だとも言えますね。
いしょうテ゛サ゛インについて
※制作中のラフ画より
今回は久しぶりに衣装デザインをやってみました。デザインの原型は前述の落書きを見ていただければと思うのですが、完成版では大きくアレンジを加えています。
元々ローブだったのを動きやすそうなコートに変更したのは、もう少し軽くて親しみやすいデザインにしたいというのもありましたが、オリジナルミクさんの衣装の要素を取り入れた結果、今の形になりました。
カラーリングはオリジナルのミクさんそのままでも良かったのですが、魔法使いということで全体的に黒基調のカラーリングをベースにして、部分的にミクさんをイメージさせる色を使用しています。
杖デザインはもう少しなんとかしたかったのですが、結局元の落書きのデザインをアレンジしながら今の形に落ち着きました。この楽曲のミクさんは「見習い」という設定なので、あまり杖は強そうに見えないように、地味な見た目だけど安っぽくは見えないバランスのデザインを探っていました。宝玉があるだけで魔法の杖っぽく見えますよね。
イラストでは前述の落書きの構図をそのまま再現しました。泣き顔なんかもそのままですね。塗り方はあまり変わっていないような気もしますが、自分の中では最近絵柄が変わってきているなと感じます。特に顔とか。
あと動画では見えませんが、実はインナーとかもしっかり考えていたりするんですよ。せっかくなので設定画も公開しちゃいますね。
と゛うか゛も ケ゛ームをいしき
ゲームの要素を表現するために「映像」の部分は重要でした。
まず動画が始まって目を引くのは歌詞表示。ゲームをされる方ならこの独特の表示、お分かりいただけるのではないでしょうか。余談ですが、レトロゲームを意識して全部ひらがなやカタカナだけで歌詞を表記にしようかと検討はしたものの、何より読みづらいので止めました。
そしてなんといってもドット絵!レトロゲームのお約束ですよね。32x32ピクセルの絵を20倍に拡大して使用しています。32x32のドット絵ということは、ちょうど今話題の「動物とのコミュニケーションを楽しむ某ゲーム」でも再現できちゃいますね。
ゲームだけでなくアニソンも少し意識していたりするので、アニメのオープニングをイメージしてタイトルロゴらしきものも間に挿入してみたりしました。ここにもドット絵ミクさんが登場してますね。
とにかく「楽しく!」を意識して、ドット絵ミクさんに宙を舞ってもらったり、音ハメ(楽曲のリズムに合わせて動かすこと)とかもやってます。映像でも楽しんでいただけたら嬉しいです。
実は、ステータス表示UIや敵キャラなど、他にも加えたい要素はあったのですが、制作の都合で諦めました・・・
むかしの さくひんを おもいた゛す
新しいミクさんと再出発、ということで完成した記念碑的な作品となりましたが、以前に制作した楽曲のことも思い出していました。
『もっと歌いたい』はV4Xミクさんと再出発ということで制作した記念碑的な作品でして、当時「ミクさんにどんな歌を歌ってもらいたいか」と試行錯誤した曲でした。今回も「今までと違うミクさんならどんな曲が良いか」と試行錯誤しながら作っていて、まさに当時の状況と見事に重なります。
※参考までに、当時のことを書いた記事です
初音ミクオリジナル曲『もっと歌いたい』制作の裏側とか
また、『HIRARI』(2017年に投稿したオリジナル版)では自作のイラストを披露しているのですが、当時はイラストの出来に納得できず、これがきっかけでイラストも練習するようになりました。また『HIRARI』ではオリジナル衣装までデザインしていて、今回描いたオリジナル衣装に繋がっているのかな、としみじみ思いました。
「今までとは違った新しい作品を」ということで生まれたはずでしたが、こうして振り返ってみると過去の作品と繋がって今回の作品があるんだな、と実感します。NTミクさんとのスタート地点でありながらも、過去の集大成と呼べる作品に仕上がったと思います。
さいこ゛に
さて、気合を入れた一曲ということで長々と書いてしまいましたが、「新しい」ミクさんと作った曲、私にとっては「新しい」方向性を探った曲が出来上がったと思います。
これからも新しいミクさんと一緒に、私も「レベルアップ」していきたいと思います!