しゅいその「140文字だけじゃ伝えられない思い」

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初音ミクオリジナル曲『街の雪あかり』制作の裏側について

はじめに

さて、今年も冬の曲を投稿しましたが、雪シリーズも6曲目になります。毎年雪ミクさんの曲を投稿するのがノルマになりつつありますが、私なりにこだわりを持って毎回作っているのでその制作の裏側について書いていこうと思います。

ちなみに去年投稿した冬の曲の紹介記事はこちらです。興味があればどうぞ。

初音ミクオリジナル曲『スノーホルンコンチェルト』の裏側と、ホルンという楽器について

久しぶりのV4Xさんです

NTミクさんが発売されて以降、私の曲はずっと彼女に歌ってもらいましたが、今回は久しぶりにV4Xミクさんに歌ってもらいました。というのも、私が書く雪ミクさんの曲には柔らかい声が必要不可欠だったからです。以前の記事にも書きましたが、可愛らしくもどこか儚いV4XミクさんのSoftの歌声は、私にとって雪ミクさんのイメージにぴったりだったのです。NTミクさんのOriginalの歌声ももちろん素敵なのですが、V4XミクさんのSoftのような声はどうしても出せませんでした。これが久しぶりにV4Xさんにお願いした理由です。

しかし、V4Xさんに戻ったからと言ってクオリティが落ちているとは決して思ってはおらず、むしろNTミクさんの調声で得たノウハウを活かしてさらに磨きがかかったと思っています。以前と聞き比べると、より人間らしい調声になっているのがお分かりいただけるのではないでしょうか。

非常に穏やかな曲なので、いつもより強弱を付けることを意識しました。音楽記号でいうとクレッシェンドやデクレッシェンドですね。以前の曲に比べると「VOCALOIDらしさ」は失われた気がしますが、こういう調声もアリなんじゃないかと思っています。

北国の街並みをイメージしました

タイトルの「雪あかり」とは雪を照らす灯りのことです。雪国の街でも日没とともに明かりが灯り始めますが、白い雪はそれらに照らされてぼうっと明るく光り、とても幻想的な風景なのです。そして「雪あかり」と言えば、小樽市で毎年恒例で開催される「小樽雪あかりの路」は北海道を代表する冬のイベントです。恥ずかしながら私は一度も参加したことがないのですが、この時期の幻想的な冬の街並みをイメージして作りました。

「小樽雪あかりの路」と並ぶ冬のイベントと言えば、「さっぽろ雪まつり」がやはり世界的に有名ですよね。その雪まつりにあわせて雪ミクさんのイベント「SNOW MIKU」が開催されるのですが、今年の雪ミクさんは「イルミネーション」をテーマに衣装が一般公募されました。採用された衣装はイルミネーションをイメージした電飾だけでなく、時計台をイメージさせる「時計」のモチーフも取り入れられています。そんな雪ミクさんをイメージして、曲の冒頭には札幌市時計台の鐘の音をサンプリングしてみました。ちなみに冒頭で鐘が5回鳴るのは、北海道の2月の日没がだいたい5時だからという理由です。(厳密には4時から5時の間が日没となります)

残念ながら今年は「小樽雪あかりの路」「さっぽろ雪まつり」いずれも中止となってしまいましたが、来年こそは開催されると良いですね。

なぜシンセサイザーなのか

今までの冬の曲は「アコースティック」な音色を取り入れるのをルールとしていて、ピアノ、ストリングス、アコースティックギターなどを中心にアレンジを作ってきました。しかし、今回の曲ではそのルールを破り、すべてシンセサイザーで作られています。それにはちゃんと私なりの理由があります。

過去の雪ミクさんの衣装と言えば、植物、星、動物・・・など、自然のものがテーマになることが多かったですよね。しかし今年は、電気を使用した人工物「イルミネーション」がテーマとなっており、過去の例から見るととても意外なテーマに感じました。「電気」をイメージした音って何だろうと考えたとき、私はふと「電気」を使用した楽器が思い浮かびました。そこでアコースティックな音色をあえて封印し、シンセサイザーを用いた楽曲を制作しようと考えました。

使用したのはArturia社の「Mini V」というソフトウェアのシンセサイザーです。現代的な煌びやかな音というよりも、レトロで温かみのある音が鳴るシンセです。ストリングス、ベル、ドラムに至るまですべてこれで演奏しています。

シンセサイザーと言えばダンスミュージックのようなアレンジが定番かもしれませんが、この曲はそのようなアレンジとはかけ離れています。個人的にシンセサイザーはどんなジャンルでも使える音だと思っていて、私は慣れ親しんだオーケストラの音をシンセサイザーで再現してみようと試みました。実を言うとクラシックの曲をシンセサイザーで演奏するという試みはかなり昔から行われていて、美しいメロディーと電子的な音は親和性が高いと感じていました。音色こそ電子的な音ですが、「この音はピアノ、この音はストリングス、この音はオーボエ・・・」という感じで、頭の中でクラシカルな楽器をイメージしながらアレンジを組み立てていきました。

動画タイトルにもあるノクターンとは日本語では「夜想曲」と訳されます。伸びやかでゆったりとした、その名の通り夜をイメージした曲の総称です。今回は夜の曲とということもあり、ノクターンをイメージしながらアレンジを考えていきました。

もしこの曲を聴いたときオーケストラの音が聞こえてきたのなら、私の意図が伝わったということで嬉しいですね。

少しメロディーにも工夫を

このメロディー、どことなく不思議な明るさを感じませんか?実は聞きなれている「ドレミファソラシド」の音階とは異なる音階を使って作曲しました。

基本となっているのは「ミクソリディアンスケール」という教会音階の一つで、「ドレミファソラ♭シド」と「シ」のみ半音下がっています。詳細はネットで調べていただければと思いますが、不思議な明るさの秘密はこの音階だったりします。中間で転調する部分では聞き慣れた「ドレミファソラシド」の音階に戻りますが、これは自然なメロディーを維持するために使い分けました。皆さんもご存じ、この「ドレミファソラシド」の音階はイオニアンスケールと呼びます。

名前がミクさんに似ているから使った・・・なんて理由ではありませんが、雪シリーズをこれだけ続けてくると似た曲ばかりになってきてしまうので、飽きられないためにも新しいことにもチャレンジが必要だと思ったのです。

歌詞について

楽曲紹介を書くとき、いつも歌詞については悩みます。と言うのも私は、歌詞は聴き手それぞれの解釈に委ねたく、この歌詞の意味は・・・と説明するのはあまり好きではないからです。ただ、こだわったポイントもあったりするので、その辺は書いていきたいと思います。

歌詞としては「儚さ」がテーマになっています。去年まではどちらかというと冬のイベントへの期待感だったり高揚感だったり、明るい曲ばかり書いていました。確かに私はそういうのも好きですが、幻想的な冬の明るさの中には「いつか消えてしまう」という儚さもあったりして、その一瞬の煌めきこそが美しく感じる理由だと思うことがあります。ずっと飽きずに冬の曲を書き続けてますが、私は色んな冬の魅力を伝えたいという思いで曲を書いているので、冬の美しさは一つだけじゃないということが伝われば嬉しいです。

雪ミクさんのテーマでもある「イルミネーション」をモチーフとして取り入れてますが、その言葉はあえて使わないようにしました。私のメロディーには英語的な響きよりも日本語的な響きが合う気がしていて、またカタカナ英語も個人的にあまり好きではないので、今回は日本語のみで作詞しました。海外の方にとっては「日本語の独特の響きが好き」という方もいるみたいで、ミクさんのSoftライブラリは日本語に特化した歌声なので、日本語で行こうと決めていました。

日本語は日本が誇る文化の一つなので、日本語の響きを大切にした歌がもっと増えてくれると嬉しいな、と思う私なのでした。

最後に

気軽に外出できないこの状況下ですが、せめて音だけでも幻想的な冬の風景を感じていただけたらという思いで制作しました。いつか自由に旅行などができる世の中になったら、ぜひ北海道にも遊びに来てください。その日が来るまでは私達はできることから頑張って、この苦境を乗り越えていきたいですね。