しゅいその「140文字だけじゃ伝えられない思い」

しゅいそが作った動画作品や好きなものを紹介します

初音ミクオリジナル曲『スパイスノーミッション』制作の裏側について

はじめに

前回の新曲からだいぶ間隔空いてしまいましたが、毎年恒例ということで何とか今年も冬曲を投稿できました。ブログのほうも久々になってしまったということで、新曲紹介を書いていきたいと思います。

今回はテーマに苦慮しました

私が今までの冬曲を制作するとき、その年度の雪ミクさんのテーマやモチーフなどから冬や雪に繋げて歌詞を書いてきました。例えば2023年の「空模様」であれば移り変わる冬空、2019年の「プリンセス」であれば冬をお祝いする祭のワクワク感、と言った感じです。

今年はと言うと、テーマが「北海道の冬をイメージしたごちそう」となっており、衣装も「スープカレー」がモチーフとなっています。幻想的な雪景色に急に温かい食べ物を出したところで不自然ですし、冬の祭にしてもスープカレーが定番の食べ物かというと、私自身あまりイメージが湧きません。屋内でゆったりと味わう食べ物のイメージですし。

いっそ冬や雪をメインに置いて食べ物をサブにすることも考えたのですが、それだと今年の雪ミクさんでやる意味がないかなと。そこで「スープカレー」をメインに置き、冬や雪は少し添える程度のバランスにすることにしました。結果として私の過去の冬曲と比べても異色で、個性的な冬曲ができあがったのだと思います。

なぜ「スパイ」なのか?

私はいつも楽曲のタイトルを決めるときは楽曲(というより歌詞)が完成した後に付ける派なのですが、今回は制作を開始する前、一番最初にタイトルを考えました。
前述のとおりテーマが迷子になりそうだったので、そのテーマをしっかりと表すタイトルを付けることで制作のゴールを明確にしようと思ったのです。

まず、これは雪ミクさんの曲なので「雪」「スノー」は入れたいなというのは当初から考えていました。また食べ物がテーマなのでそれを連想させるキーワードも入れようと。

ソルト(塩)だと雪っぽくて良さそうだけどスープカレーにはあまり結びつかないし、「スープカレーの歌」だとあまりに安直すぎる。そこで「スープカレー」→「スパイス、スパイシー」と少し形を変えて入れることに。「スノースパイス」「スパイシースノー」だといまいち楽曲の雰囲気が伝わりづらい。スパイススノー・・・スパイスノー?No spiceとSpy snowがダジャレになってて面白いかも、ということでネタ曲で行く方針はこのとき決まりました。

スパイスは分かるとしてスパイって何だろう?と色々考えを巡らせたところ、単純な私は「スパイ映画で行こう」と考えました。単に「スパイスノー」というタイトルでも良かったのですが「スパイス/ノー」で区切るとスパイ感が薄れてしまうので、スパイを連想させるキーワードをくっつけました。それが今のタイトルです。

「スパイスノージャズ」とかも候補に挙がったのですが、私はいつも動画のタイトルにジャンルを入れていてしつこいかなと思ったので、歌詞の世界観が伝わりやすそうなキーワードを選びました。

歌詞について色々

ダジャレが効いたタイトルなので、スパイ映画バリバリのシリアスな雰囲気というよりも、一見カッコ良いけど実はただグルメ巡りをしているだけというミスマッチ感を狙ってみました。

一応雪ミクさんの曲なので、食べ物やスパイに極振りせず程よく冬や雪のキーワードを散らすことも意識しています。ただ前述のとおりスープカレーと冬の景色が直接結び付いているわけではないので、あくまで物語を彩る一要素として登場するのみとなっています。そこは当初の方針からブレないように、というところですね。

歌詞中には「スープカレー」「カレー」というキーワードはあえて入れていません。聴き手が歌詞から好きな料理を思い浮かべてくれたら良いんじゃないかと。スパイにとって重要なキーワードって暗号にしますし、「S.P.I.C.E」というワードに変換して何度も登場します。香辛料をただ英語にしただけですね。一方で「例のブツ」「作戦コード」「追跡」のような、スパイっぽい用語を散らしてみたり。

Cメロはかなり遊びました。普通に聴く分なら違和感はないかもですが、登場する食材がなぜか「NJN(ニンジン)」「JGM(ジャガイモ)」のようにアルファベット3文字で表記されています。(特にOSR=お皿はなかなか酷くて個人的に好きです)まあ明らかな日本語ですが「ニ(ン)ジ(ン)」「ジャガ(イ)モ」のように、逆にカタコトで歌わせてみました。ネタ曲なので遊ぶときはとことん!です!

それ以外にもスープカレー定番の食材として、カボチャ、ピーマン、ナス、ブロッコリーとかも出そうかと思ったのですが、札幌のスープカレーを調べてみるとお店によって結構具材が違ったりするのですよね。なので無難にどのスープカレーにも入ってそうな食材のみに絞りました。いずれも家庭で作るようなルウカレーにも入っていて馴染みのありそうな食材たちですし。

あとスパイ映画をオマージュしたネタとかも入れたかったのですが、私自身そこまでスパイものに詳しくないですし、皆さんそれぞれが持っているスパイ像も違うと思うのでこちらは断念しました。

今回はジャズです

テーマは既に決まりましたが、スパイ風って何?と思った私は「スパイを感じる音楽」についてちょっと調べてみました。ネットって広いものでそのものズバリの音楽研究をしているサイトを見つけました。

classic-variations.com

スパイを感じる楽曲の紹介、そしてそれを感じさせる各要素について研究されていて実に興味深いページです。どの楽曲を意識したとかはあえて伏せておきますが、おおよその共通項としてジャズであることがスパイっぽさの条件じゃないかなと思っています。そんなわけでジャズで行くことにしました。

ジャズというジャンルはかなり広いものでして、例えば拙作「白い雪のおくりもの」はスウィングする3拍子のジャズ(ジャズワルツと言います)でしたが、今回はラテンジャズというジャンルを意識しています。お洒落な雰囲気の中にも情熱的なラテンのリズムが光る・・・まさに野菜の旨味の中に感じるピリッとした刺激のスープカレーのようで、今回のテーマと相性良いんじゃないでしょうか。(我ながらうまいこと言いました。スープカレーだけに)

「白い雪のおくりもの」はジャズ初挑戦ということもあり色々試行錯誤していた時期の作品で、今思うともう少しジャズっぽくできたんじゃないかと思うこともありましたが、今回はより「ジャズらしさ」に近づけるように、コード進行だったり展開だったり色々とジャズについて研究しました。不協和音を入れたり、展開にメリハリを出したりとか、その研究の成果ですかね。

「白い雪のおくりもの」とは対照的に、こちらは派手なジャズなのでブラスとかも気合入れて打ち込んでます。またウインドシンセが活躍してますね。ブラスで盛り上がる部分だけでなく、2:50あたりから静かになるところのピアノが個人的には気に入ってたりもします。

苦労したところとしては全体的にリズムが難解でして、リズム感がない私にとってリズムを取るのが結構難しかったです。こんなリズム難な曲ですら余裕で歌いこなしてしまうミクさんって、やっぱり凄いですね。

歌詞がとことんネタ曲ですが、楽曲自体はかなりカッコ良く!を意識していました。曲がカッコ良くなればなるほどミスマッチ感が増して、かえってネタらしさが増すかなと思ったのです。例えるなら、真顔でギャグをやっているような面白さといったところでしょうか。気合入れて作ったので、「オケだけはカッコ良い」と思っていただけたらこの上なく嬉しいです!

メロディー作りについて

今まであまりメロディー作りの具体的な作業について書いてなかった気がしますが、私は普段頭の中でメロディーを練ります。DAW(楽曲を制作するソフト)に向かってマウスをポチポチしたり、鍵盤をかき鳴らしているときにメロディーが浮かぶこともありますが、ほぼ大部分は頭の中で練ることが多いです。

頭の中で何度も反復して、これだ!と思うフレーズまで仕上げてから初めてDAWや鍵盤に向かいます。ただ私自身が音痴なせいか頭の中のメロディーをアウトプットするのが苦手で、この作業がどうしても時間がかかります。メロディーを思い付いたらすぐにメモを取る方もいるそうですが、私はこの方法でメロディーを忘れたことはないのでメモは取ったりしません。私は途中でメモを取ってしまうとそこで飽きてしまい、最後まで完成させないことが多かったりするので、この方法を採用しています。

ジャズと言うとお洒落なイメージがありますが、色々ジャズを聴いているとポップなジャズというのもあるんですよね。歌モノですし、今回も私お得意の(?)ポップなメロディーを意識して書きました。

Aメロのクールな雰囲気のメロディーと、Bメロの一気に広がった明るいメロディーの対比とかは頭の中でしっかり練っておいたせいか、ばっちりハマった気がします。

最後に

雪シリーズとしては雪感が薄目+ネタ曲+カッコ良いオケと異色な冬曲に仕上がりましたが、同じものばかり作り続けても面白味が無いかなと思って毎年工夫した結果だと思っています。

来年の雪ミクさんも決まってない中で気が早いですが、また次の冬もまだ見ぬ新しい冬曲を生み出せたらなと思います。次の冬曲でまた会いましょう!(冬曲以外も作ってますので、興味があればそちらもぜひ)

初音ミクオリジナル曲『雪空模様』制作の裏側について

はじめに

私は毎年恒例で冬曲を投稿しているのですが、その雪シリーズもついに10曲目となりました。それが今回の曲です。楽曲紹介を書くのも2年ぶりになりますが、記念すべき10曲目を迎えたということもあり、こだわりポイントなどを紹介していきます。

今回もNTミクさんです

2年前に投稿した『マジカルスノーマーチ』以降、冬曲では「Whisper+」の歌声が活躍しています。今回はポップスということもあり、今までの冬曲ような穏やかな歌い方からがらっと変えて、元気で快活な歌い方を意識しています。

冬曲に限定しなければポップスは過去に何度もやっていて、例えば『3.9秒のメッセージソング (for NT)』や『MPがたりない!』などではポップな明るいミクさんの歌声になっています。特段いつもと調声を変えたわけではないのですが、そのポップス向けな歌い方を冬曲やWhisper+さんでやったらどうなるだろう、というのがこの『雪空模様』での実験でした。

「そもそもポップな歌い方って何?」と思われるかもしれませんが、私は「全体の音量変化はあまり付けない」「子音を長めにしてハキハキと」「アタックやリリースのタイミングで大きくピッチを揺らす」などを意識し、ポップスに合うように少しクセが強めな歌い方を目指して調声しています。

今年の雪ミクさんを全面にテーマに押し出しました

雪ミクさんが好きなら既にご存じのことかと思いますが、今年の衣装のテーマが「北海道の冬をイメージした空模様」になっています。そこからヒントを得て、「雪と空模様」をテーマに制作を開始しました。

過去の冬曲を思い返すと、歌詞に「空」というキーワードが入っているものは結構あります。気になって調べてみたところ、この曲を除く9曲中6曲は歌詞に「空」が含まれていました。(「空気」は除きます)ただしそれらは「雪の積もる道」や「雪が降る街」など、今までは基本的に目線は下のほうを向いているイメージのものが多いです。

そこで今回は目線を上に、「空」自体を目線の中心にして歌詞を書いていきました。真冬の冷たく感じる空、粉雪の舞う空、雲の流れる空、夜が明けていく空・・・移り変わり行く空をイメージしながら、歌詞に「空」という単語が実に8回も登場します。

空って季節・日・時間帯によって常に変化していて、見ていて飽きないですよね。冬曲に限らず歌詞に「空」という単語を思わず使ってしまうくらい、私も空が大好きです。

延々と空について語ってしまいましたが、実は「空」以外にも歌詞には重要なキーワードがあります。それは「夜明け」と「筆」です。

雪ミクさんの衣装をデザインした作者さんによると、夜明けをイメージした色合いとなっており、空を描くための大きな絵筆を持っているのが印象的です。

(参考)2023年ねんどろいど雪ミク衣装&ラビット・ユキネ衣装結果発表

piapro.jp

いつもはミクさんのイメージで音楽的な用語を並べたりしてましたが、今回は「色」「塗り」「筆」「落書き」などの絵に関係するキーワードを散りばめました。筆を持ったミクさんが皆を元気づけるといった、今までにはなかったような新しい話になったと思います。

当初は絵描きということで様々な色名を歌詞に散りばめる予定でしたが、空は季節・地域・時間など様々な条件によってその色が異なるので、聴く人のイメージに委ねた方が良いかと思い、あえて色名は入れずに他のキーワードで空の色を表現してみました。

また「夜明け」の暗い空から明るい空に移り変わっていく様子を、空を描く画家に重ねて描いていて、うつむく皆の表情をその画家が明るく元気づけてくれたら良いなという希望も歌詞に込めています。

こんな感じで今年の雪ミクさんを強く意識した楽曲に仕上がったと思います。

余談ですが、「雪ミクさんを強く意識した楽曲」としては2019年のプリンセスな雪ミクさんをイメージした『雪の国からのプリンセス』以来になると思います。もしそちらにも興味がありましたら、当時の楽曲紹介記事をご覧ください。

mahjong-medlay.hatenablog.com

メロディーは明るさの中にも少し哀愁を

今までの楽曲紹介であまりメロディーについて言及することはなかった気がしますが、今回は特にこだわったので触れておきます。

AメロやBメロは非常に悩みました。いつも通りの明るさ全開のしゅいそ節でも良かったのですが、ちょっとマンネリ気味ということもあり、少し哀愁を感じるコード進行で作ってみることにしました。するとサビとは一変、ほんの少し暗さを感じるような、色に例えるとライトグレー~ダークグレーのようなAメロBメロに仕上がりました。

Aメロのコード進行、実は以前に投稿した『雪の花咲く庭に』の中間部でも使っていたりします。(アレンジやメロディが違うので分かりづらいですが)

一方、サビの部分はほとんど悩まずにパッと書けましたが、ここは明るいメロディーなので元々は明るいコード進行で作っていました。しかしAメロBメロ同様、サビもマンネリ気味なのでここでも普段使わないコード進行を採用しました。

最近色んな曲でよく使われているコード進行なので、「このコード進行聞いたことがあるかも」と感じた方は音楽的センスが鋭いと思います。詳しくは「丸の内進行」(丸サ進行)で検索してみてください。

哀愁を感じる「夜」のAメロBメロ、明るさを感じる「朝」のサビが対比になっていて、結果としてメロディーでも「夜明け」を演出できたんじゃないかと思っています。

余談ですが曲を作るにあたり、一番最初に出来上がったのは意外にもサビではなく、何度もしつこく合いの手で入ってくる「ぱっぱっぱっぱらぱぱ」というキメの部分だったりします。メロディーというよりはむしろリズムですが、この合いの手が間に入ることを意識しつつ、他の部分を書き上げていきました。

アレンジはお祭り感を意識しました

冬というと気分が落ち込みがちですが、「空」がテーマということなので明るい曲調を意識してアレンジを組み立てていきました。

雪ミクさんと言えばやっぱり冬のイベント「SNOW MIKU」がメインなので、結局『雪の国からのプリンセス』と同じでお祭り感のある楽しいポップスに行き着きました。

ただ同じような曲に仕上げてもつまらないので、向こうが8ビートロックなのに対して、こちらはディスコビートで行くことにしました。サビではひたすら同じリズムパターンの繰り返しなので、よりノリやすく「お祭り感」があるのではないでしょうか。

アレンジと言えば、オケに入っている和楽器についても少し触れておきます。

この曲を制作開始した当時、和風曲として作るつもりはありませんでした。メロディーがヨナ抜きになっておらず、和風感がないのはこのときの名残です。

それでも三味線、尺八、太鼓と言った和楽器を使った理由としては、今年の和を感じさせる雪ミクさんの衣装デザインを見たとき、ふと楽曲に「和」らしさを感じさせる要素を入れたくなったからです。結果として洋風なメロディーに一見ミスマッチな和楽器が混ざったりして、和洋折衷な「お祭り感」をより強調できたんじゃないかと思っています。

アレンジの話題からは少し逸れますが、タイトルが漢字4文字となっているのも、同じく「和」を意識したものです。

今回こだわったというか、時間がかかったのはギターの音色です。

「ワウ」と呼ばれるフィルターが強めにかかった特徴的な音色に仕上げましたが、普段私が使わないフィルターということもあり調整に時間がかかりました。ワウのかかったギターって癖が強そうに感じますが、実は昔から結構使われていて、楽曲に面白い味付けをしてくれたりします。ワウギターを使ったミクさんの曲ってあまりないなと思っていて、面白そうなので今回使ってみました。(もし楽曲をご存じの方がいらっしゃいましたら、お知らせいただけると嬉しいです・・・!)

イラストについて

今回の雪ミクさんとユキネ氏のかわいいイラストはSa-fuさんに描いていただきました。大人の事情でここには載せられないので、Sa-fuさんの素敵なイラストはぜひ動画でご覧ください。

餅は餅屋・・・ではないですが、やっぱり私よりも絵師さんの方が遙かに上手なので、イラストにはあまり口を挟んでいません。ただ、空については結構こだわって色合いとかは色々注文してしまった気がします。そんな注文にも見事に応えてくださったSa-fuさんには感謝しかありません。この場を借りてお礼申し上げます。

映像ではサビで雪が降ってますが、これはSa-fuさんのアイディアで入れたものです。
お陰で素敵な動画に仕上がったと思います。

今まで雪ミクさんのイラストを他の方にお願いして描いてもらうということはほとんどありませんでしたが、2022年投稿の『マリンスノーヴォヤージュ』からは絵師さんにお願いして描いてもらうようにしています。

私よりも上手い人に描いてもらいたいというのもありますが、何より雪ミクさんが好きな絵師さんを一人でも多く応援したい、というのが一番の理由だったりもします。

最後に

雪シリーズ記念すべき10曲目の曲となりましたが、私なりに新しい要素を入れながら飽きられないように工夫して作ったつもりです。

今後も新しいことに挑戦しながら次の冬曲を書いていきたいと思いますので、どうかこれからもお付き合いいただければと思います。

ニコニコメドレー『ニコニコ動画的理論』制作のあとがき

はじめに

3年弱という長い制作期間を経て、ニコニコメドレー『ニコニコ動画的理論』はようやく完成しました!制作中の過程については下記記事を見ていただければと思います。

『麻雀の人がニコニコメドレー』 現在の進捗まとめ

この記事では、企画をやろうと思った本当の理由や、このメドレーを通して各作者に伝えたいことなど、今まで明かしてなかった作品の裏事情について書き綴っていきたいと思います。どちらかというと作者に向けた内容が中心なので、聴き専の方にとってはちょっと興味が薄い記事かもしれません。

シリーズ最終回と完成版の違いについて

完全に作者向けの内容だと聴き専の方に申し訳ないので、まずは完成版の制作にあたって手を加えた部分などについて解説したいと思います。

シークレット枠の追加

まずはシークレット枠の2曲について。

動画でもちらっと触れましたが、2019年の制作当初は2007~2019年までの曲を偏りなく採用することを心がけていました。しかし制作が長引くと、2020年以降の曲が不足し、「古いメドレー」という印象が拭えなくなってきます。ネタバレ防止のために曲名はあえて伏せておきますが、新しめの2曲を採用したのはそれが理由です。

いずれもニコニコで人気の曲のはずなので、採用基準としては悪くないのではないでしょうか。

音源の手直し

音については少し手直しをしています。全体的にティンパニを追加したので、より「オーケストラらしさ」が出ました。

また、最後のシンセパートはどうもシンセ感が足りなかったのでシンセベルやアルペジエーターなどを追加してます。またこのパートのクラッシュシンバルはオーケストラの合わせシンバルに変更しました。

映像の手直し

映像について、最後のほうでコメントで意見をいただいたとおり、BPM表示を付けてます。これは160固定で変わらないのですが、どうやら需要があるみたいなのでアイディアとして採用しました。

この作品を通じてメドレー作者たちに伝えたかったこと

以降はほぼ作者向けの内容になりますので、興味がなければ読み飛ばしていただいても構いません。

制作を始めたきっかけについて

まず「私一人ではニコニコメドレーを作れないから」というのが一つの理由でした。
これは動画にも元々書いてましたが、実はこれ以外にも明かしてなかったもう一つ理由があります。

それは「他のメドレー作者にとって有益な情報を届けること」です。

・・・早速「?」となった方もいると思いますので噛み砕いていきます。

「聴き手がメドレーに求めているものは何か」を引きだしたかった

よく見かけるニコニコメドレー制作を解説した記事というものは、構成、選曲、編曲・・・など作り手目線で書かれることが多いです。ただその中に「聴き手がどういうものを求めているか」といったところに踏み込んだ記事はあまりないように思います。私が企画の中で必死にコメントを煽っていたのは、「聴き手がメドレーに対して何を求めているのか」、それを引きだすのが目的でした。

と言ってもこの記事を書いている時点ではメドレーはまだ投稿されておらず、実際に投稿されるまでこのメドレーのどこに注目されているかも分からないのですが、「聴き手がメドレーに対してどのあたりに意見を言いたいのか」については過去のコメントから推測することができます。

聴き手が求めるものはやっぱり「選曲」

ずばり結論から申し上げますと、聴き手がメドレーに意見したい項目は「選曲」です。
シリーズ通してついたコメントの割合を見ても、選曲に関するものは圧倒的に多かったです。

普通に曲追加リクエストも多かったですが、「こっちの曲よりもこっちのが良いんじゃない?」とか「マイナーな曲もアリだと思う」とか選曲リストに対しての意見などもあり、とても参考になりました。

このことからも聴き手は「選曲」を重視しており、これがメドレーの出来を左右すると言っても良いでしょう。もしこれから作品を作られる方がいれば、まずは選曲を見直してみてください。おそらく聴き手はここを一番よく見ています。

おそらく聴き手はアレンジに対して意見はしない

逆に聴き手がメドレーに対して意見が全く出なかったのは、「アレンジ」についてでした。

ただ誤解しないでいただきたいのは、「コメントが無い=聴き手が興味がない」とは限らないということです。完成したメドレー動画では、アレンジが良いとか音作りが良いというコメントを見かけることもあり、少なくともアレンジの部分を全く無視して楽しむということはしないでしょう。

アレンジに対して意見するには聴き手にも専門的な知識が求められるので、ここについて意見を求めるのは難しいかもしれません。もし率直に意見が欲しい場合は、知り合いの音楽仲間などに直接求めるのが良いでしょう。

意外な反応もありました

個人的に意外だったのは、「タイトル」についてほとんど意見が出なかったことでした。

タイトルというのは動画の顔になるわけですから、それを聴き手の責任に委ねるのは少々荷が重たかったかもしれません。これは動画投稿者が責任を持って付けるべきなのかもしれませんね。

一方、「動画」に対して意見をいただけたことも、個人的に意外だと感じました。

シリーズを続けていくと、聴き手の興味も薄れたのか目に見えてコメントも減ってきます。ただ、制作がRC(動画編)に差し掛かったころ、少ないながらもコメントが付くようになりました。

結局、空気の読めるWMPWindows Media Playerの視覚エフェクトの愛称)と、曲名や出典のテキスト表示だけ、というシンプルなものに落ち着きましたが、コメントがあったからこそこんな動画になったのだと思います。当然メドレーは「音声」が重要だとは思いますが、作り手が予想している以上に聴き手は「映像」を見ている、ということが分かりました。

最後に

以上、聴き手を意識して制作する上で重要な項目をまとめてきましたが、あまり他者を意識しすぎるといい作品が作れないという方もいると思います。暴論になってしまいますが、反応は気にせず、自分の作りたいように作るのが一番だと思います。あくまでここに書いたものは制作方針の一つに過ぎない、ということを心に留めておいてください。

私は麻雀メドレー作者を自称しているので偉そうにニコニコメドレーを語れる身分ではないですが、もし制作する上でのヒントとなったのであれば、私としてはこの作品を作る「意味」は十分にあったと感じます。

初音ミクオリジナル曲『マジカルスノーマーチ』制作の裏側について

はじめに

前回の曲からだいぶ間隔が空いてしまいましたが、何とか新曲を公開できたので久しぶりに紹介記事を書いてみます。今年、赤い羽根×ピアプロコラボのキャンペーンソング採用なんかもあったりして、間が空いている感覚はあまりなかったのですが、新曲としては7か月ぶりとなってしまいました。

お久しぶりです!しゅいそ楽団です

今回は久しぶりに「しゅいそ楽団」名義を使用しました。実に4年ぶりのことです。

もし「しゅいそ楽団」をご存じでない方がいらっしゃいましたら、以下の記事で解説してますので、興味があればどうぞ。
初音ミク十周年記念オリジナル曲『ありがとうアニバーサリー』の制作秘話とか

前回から変わったことと言えば、新しいソフト音源を導入して「生の音により近づいたこと」です。その進化は『ありがとうアニバーサリー』と聴き比べていただければすぐに分かると思います。これでもかというほどガンガン鳴らしてますが、私が要求したとおりの音で鳴ってくれるので、作る方もかなり楽ができました。

以前の『ありがとうアニバーサリー』ではMIDIキーボードを使用して制作しましたが、1年くらい前から導入したウインドシンセサイザーが今回の制作では役立っています。それを初めて使用したのが『スノーホルンコンチェルト』という曲で、キーボードではできなかった繊細なニュアンスを表現することができました。最近だと『サマーブリーズ』という曲でもウインドシンセサイザーが活躍していますね。

この曲ではパーカッションパート以外を全てこのウインドシンセサイザーで演奏しており、各パートの入力には非常な手間がかかってます。確かに一つ一つの楽器をリアルに再現するのはDTMにおける理想的な姿ではありますが、時間がかかり過ぎて現実的ではありません。こんな面倒な真似をしようと思うクリエイターは、おそらく世界中探しても、ほとんど見つからないんじゃないでしょうか。なお、ウインドシンセサイザーが何なのかについては、以下の記事で書きました。
初音ミクオリジナル曲『スノーホルンコンチェルト』の裏側と、ホルンという楽器について

こんなことが実現できたのも、私が吹奏楽の音をDTMで再現したいという、私しゅいその並々ならぬ情熱があったからなのかもしれませんね。

NTミクさんがアップデートされました

ご存じの方もいるかもしれませんが、初音ミクNTのリリース当初、ボイスライブラリーが「Original+」の1種類しか搭載されませんでした。

以下の記事にも書いているとおり、NTミクさんのOriginalの歌声ではV4XミクさんのSoftのような声が出せず、前の冬の曲ではV4Xミクさんに歌ってもらったということがありました。
初音ミクオリジナル曲『街の雪あかり』制作の裏側について

しかし今年に入ってNTミクさんもアップデートされ、「Whisper+」「Dark+」のボイスライブラリーがようやく追加されました。そこで、以前のV4XミクさんのSoftのような歌声が出せないかと試したところ、それに一番近かった「Whisper+」の歌声を採用することにしました。

「Whisper+」の素の声だとSoftよりも音が細く幼い声なので、Voice Voltageを上げて声を太くし、Super Formant Shifterを下げて少し大人の声に近づけています。以前の冬曲と聴き比べてもそこまで違和感はないくらい、V4XミクさんのSoftの声に近づいたんじゃないかと思っています。もしV4XミクさんのSoftみたいな声が必要という方がいれば、ぜひ試してみてくださいね!

あとは調声について少しだけ。

以前からそうなのですが、NTミクさんは本物の歌手のような歌い方を意識して調声しています。そのため、音域も無理のない範囲で設定することが多いのですが、今回は私の楽曲中で最高音を更新しました。(サビでG4に達します)というのも、少し狙って「合成音声っぽい声」を入れてみようと思ったからです。

ミクさんに限りませんが合成音声というものは一般的に、高音になればなるほどキンキンとした音になり、これを多用すると「いかにも合成音声っぽい声だな」と認識されがちです。しかし、これをあえて効果的に使う作者さんも結構見かけます。私はあくまで人間らしい調声を心がけているので今まで避けてましたが、サビを印象的にする意図であえて適正な音域から外れた音を入れてみました。その意図が上手く伝わっていれば良いですが・・・

今回のテーマは「雪と魔法少女」です

タイトルからしてそのまんまですが、「雪と魔法少女」がテーマになっています。

実は1年前に魔法使いをモチーフにした楽曲を制作していて、少しテーマが被っています。なお、そのときのことは以下の記事に書いてますので、興味があればどうぞ。
初音ミクオリジナル曲『MPがたりない!』のこた゛わりとNTミクさんについて

以前に制作した楽曲はビデオゲームのメタ的要素が盛り込まれた世界観だったので、こちらは絵本とかに出てきそうな童話のような世界観を目指すことにしました。向こうが現代風ファンタジーなら、こちらは王道ファンタジーと言ったところでしょうか。

子供でも親しみやすいような歌詞が、可愛らしい歌声ともマッチしていると感じていて、個人的に気に入っています。

余談ですが、サビの部分は当初は英詩にしようと考えていました。しかし、英単語がなかなかメロディに合ってくれないので、いつも通り日本語で行くことにしました。もしこの曲を聴いて「何か英語が似合いそう」と感じる方がいれば、私と波長が合うのかもしれませんね。

吹奏楽といえば「マーチ」でしょ!

名は体を表すと言いますが、曲名の通り「マーチ(行進曲)」になっています。

なぜマーチにしたのかは話すと長くなるのですが、もともと吹奏楽においてはマーチというものは一大ジャンルだったりします。吹奏楽の原型は「ブラスバンド」と言われていますが、そのブラスバンドは軍の音楽隊として重宝されました。行軍の曲としてマーチが演奏されたため、ブラスバンド向けのマーチが多く作られることになりました。

マーチはテンポが一定で初心者でも演奏しやすく、教育の場においても題材としてよく取り上げられます。特に日本における吹奏楽は学生の割合が多いため、頻繁にマーチが演奏されます。毎年開催される吹奏楽のコンクールにおいては課題曲にマーチが設定されることもあり、それほど吹奏楽とマーチは深い関わりがあるものなのです。

そんな背景もあり、実は以前からしゅいそ楽団名義でひそかに別のマーチを作っていました。しかし様々な事情があり、この曲は途中で制作を断念することとなってしまいました。

ただ、しゅいそ楽団名義でまた曲が作りたいという気持ちは諦めきれず、次は何を作ろうかと考えた末に出てきたのが、やはり「マーチ」でした。没になった曲から使えそうなアイディアを今回の曲に盛り込み、しゅいそ楽団式マーチが何とか完成したのです。

私が吹奏楽をやっていた頃によくやっていた課題曲のマーチ何かを思い出しながら、マーチで良く聴くようなフレーズをふんだんに盛り込み、いかにも「吹奏楽」なマーチに仕上がったと思います。

転調してトリオ(中間部)に入るのも割とベタな展開ですが、ここではLaLaLaでミクさんの歌声をオケに被せています。いわゆる「ヴォカリーズ」というやつです。もともとここはバックのオケだけにしようと思ってましたが、あまりにもミクさんの休みが長くなってしまうので声を入れました。中間部の性質として一旦落ち着く部分なのであえて歌詞はつけませんでした。手抜きではありませんよ!他に、ラップや掛け声をやってもらう案もありましたが、今回は王道なマーチで行きたかったのでこれは没になってます。

あとは転調を多用してます。私自身は転調を使いこなせないので多用することはあまりなかったのですが、変ロ長調ト長調変ホ長調ハ長調・・・と今回は多めに使っています。目まぐるしく雰囲気が変わっていく様子がまるで魔法みたいで、個人的には気に入っているのですが、皆さんはいかがでしょうか。

同じくしゅいそ楽団名義で制作した『ありがとうアニバーサリー』とは曲調が異なるように感じられるかもしれませんが、ポップスあり、マーチあり・・・と様々なジャンルの曲が楽しめるのも吹奏楽の魅力だと思います。

余談ですが、私はマーチ大好きっ子です。マーチを聴くとテンションが上がってしまいます。テンションが上がる曲は何ですかと聴かれれば、おそらく私はマーチと答えると思います。それくらい好きです。

動画は前回よりも手をかけました

今回は動画にもそれなりに時間をかけました。

というのも、元々この曲は去年の冬に投稿するつもりで作っていました。ただ、去年の冬は体調崩すことが多くて、結局完成できずで投稿できませんでした。

TwitterにWIP(制作過程。Work in progressの略)として、雪ミクさん(とユキネ氏)のイラストを去年公開したりしてましたが、実はこの楽曲の動画で使うために用意していたものなのです。

f:id:mahjong_medlay:20211221234450p:plain※イラストの制作過程より

そんなこんなで、今年はある程度制作が進んだ状態からスタートできたので、動画も少し時間をかけて作ることにしました。動画のセンスは相変わらずですが、以前の冬曲よりは動画用の素材をたくさん用意して、少しだけ豪華な作りになっています。あとは歌詞の表示のさせ方を変えたりとか。

また動画用の素材として、『スノーホルンコンチェルト』でもやりましたが、楽譜を登場させてみました。動画に使うために楽譜制作ソフトを使用し、実際にフルスコアを制作してたりします。やっぱり吹奏楽は楽譜としても残しておきたいですよね。

また、その楽譜については下記からダウンロードできるようにしました!アレンジの参考にするなり、演奏するなり、お好きに使ってください。

なまくら音楽室(MUSICからダウンロードできます)

最後に

久しぶりにしゅいそ楽団として楽曲を公開することができましたが、この曲を通して少しでも吹奏楽の良さが伝わってくれたら嬉しいです。もし、しゅいそ楽団としてまた曲をつくる機会があれば、また違った方向の曲で吹奏楽の魅力をお伝えできたらなと思います。

それでは、うちのミクさんの歌声が一人でも多くの方へ届くことを祈って・・・

ブロマガからの移行が完了しました&しゅいその自己紹介

とりあえず自己紹介と挨拶代わりに記事を書いてみます。

ご存じの方はご存じかもしれませんが、私はニコニコ動画に音楽作品を投稿しているクリエイターのしゅいそと申します。そこに投稿している作品を紹介するツールとして、ニコニコに付随するブログサービス「ブロマガ」を以前より利用してきましたが、この度サービスを終了することがアナウンスされました。

site.nicovideo.jp

その移転先として、はてなブログ様にお世話になることになりました。とりあえずブロマガに投稿していた記事を一通り移行が完了しました。

この記事を執筆している時点ではまだアイコンすらまともに設定できていない有様ですが、今後はこちらで動画の紹介をメインに記事を書いていけたらと思っております。

以上、自己紹介代わりの簡単な挨拶でしたが、私ともどもこちらのブログをよろしくお願いいたします。

初音ミクオリジナル曲『街の雪あかり』制作の裏側について

はじめに

さて、今年も冬の曲を投稿しましたが、雪シリーズも6曲目になります。毎年雪ミクさんの曲を投稿するのがノルマになりつつありますが、私なりにこだわりを持って毎回作っているのでその制作の裏側について書いていこうと思います。

ちなみに去年投稿した冬の曲の紹介記事はこちらです。興味があればどうぞ。

初音ミクオリジナル曲『スノーホルンコンチェルト』の裏側と、ホルンという楽器について

久しぶりのV4Xさんです

NTミクさんが発売されて以降、私の曲はずっと彼女に歌ってもらいましたが、今回は久しぶりにV4Xミクさんに歌ってもらいました。というのも、私が書く雪ミクさんの曲には柔らかい声が必要不可欠だったからです。以前の記事にも書きましたが、可愛らしくもどこか儚いV4XミクさんのSoftの歌声は、私にとって雪ミクさんのイメージにぴったりだったのです。NTミクさんのOriginalの歌声ももちろん素敵なのですが、V4XミクさんのSoftのような声はどうしても出せませんでした。これが久しぶりにV4Xさんにお願いした理由です。

しかし、V4Xさんに戻ったからと言ってクオリティが落ちているとは決して思ってはおらず、むしろNTミクさんの調声で得たノウハウを活かしてさらに磨きがかかったと思っています。以前と聞き比べると、より人間らしい調声になっているのがお分かりいただけるのではないでしょうか。

非常に穏やかな曲なので、いつもより強弱を付けることを意識しました。音楽記号でいうとクレッシェンドやデクレッシェンドですね。以前の曲に比べると「VOCALOIDらしさ」は失われた気がしますが、こういう調声もアリなんじゃないかと思っています。

北国の街並みをイメージしました

タイトルの「雪あかり」とは雪を照らす灯りのことです。雪国の街でも日没とともに明かりが灯り始めますが、白い雪はそれらに照らされてぼうっと明るく光り、とても幻想的な風景なのです。そして「雪あかり」と言えば、小樽市で毎年恒例で開催される「小樽雪あかりの路」は北海道を代表する冬のイベントです。恥ずかしながら私は一度も参加したことがないのですが、この時期の幻想的な冬の街並みをイメージして作りました。

「小樽雪あかりの路」と並ぶ冬のイベントと言えば、「さっぽろ雪まつり」がやはり世界的に有名ですよね。その雪まつりにあわせて雪ミクさんのイベント「SNOW MIKU」が開催されるのですが、今年の雪ミクさんは「イルミネーション」をテーマに衣装が一般公募されました。採用された衣装はイルミネーションをイメージした電飾だけでなく、時計台をイメージさせる「時計」のモチーフも取り入れられています。そんな雪ミクさんをイメージして、曲の冒頭には札幌市時計台の鐘の音をサンプリングしてみました。ちなみに冒頭で鐘が5回鳴るのは、北海道の2月の日没がだいたい5時だからという理由です。(厳密には4時から5時の間が日没となります)

残念ながら今年は「小樽雪あかりの路」「さっぽろ雪まつり」いずれも中止となってしまいましたが、来年こそは開催されると良いですね。

なぜシンセサイザーなのか

今までの冬の曲は「アコースティック」な音色を取り入れるのをルールとしていて、ピアノ、ストリングス、アコースティックギターなどを中心にアレンジを作ってきました。しかし、今回の曲ではそのルールを破り、すべてシンセサイザーで作られています。それにはちゃんと私なりの理由があります。

過去の雪ミクさんの衣装と言えば、植物、星、動物・・・など、自然のものがテーマになることが多かったですよね。しかし今年は、電気を使用した人工物「イルミネーション」がテーマとなっており、過去の例から見るととても意外なテーマに感じました。「電気」をイメージした音って何だろうと考えたとき、私はふと「電気」を使用した楽器が思い浮かびました。そこでアコースティックな音色をあえて封印し、シンセサイザーを用いた楽曲を制作しようと考えました。

使用したのはArturia社の「Mini V」というソフトウェアのシンセサイザーです。現代的な煌びやかな音というよりも、レトロで温かみのある音が鳴るシンセです。ストリングス、ベル、ドラムに至るまですべてこれで演奏しています。

シンセサイザーと言えばダンスミュージックのようなアレンジが定番かもしれませんが、この曲はそのようなアレンジとはかけ離れています。個人的にシンセサイザーはどんなジャンルでも使える音だと思っていて、私は慣れ親しんだオーケストラの音をシンセサイザーで再現してみようと試みました。実を言うとクラシックの曲をシンセサイザーで演奏するという試みはかなり昔から行われていて、美しいメロディーと電子的な音は親和性が高いと感じていました。音色こそ電子的な音ですが、「この音はピアノ、この音はストリングス、この音はオーボエ・・・」という感じで、頭の中でクラシカルな楽器をイメージしながらアレンジを組み立てていきました。

動画タイトルにもあるノクターンとは日本語では「夜想曲」と訳されます。伸びやかでゆったりとした、その名の通り夜をイメージした曲の総称です。今回は夜の曲とということもあり、ノクターンをイメージしながらアレンジを考えていきました。

もしこの曲を聴いたときオーケストラの音が聞こえてきたのなら、私の意図が伝わったということで嬉しいですね。

少しメロディーにも工夫を

このメロディー、どことなく不思議な明るさを感じませんか?実は聞きなれている「ドレミファソラシド」の音階とは異なる音階を使って作曲しました。

基本となっているのは「ミクソリディアンスケール」という教会音階の一つで、「ドレミファソラ♭シド」と「シ」のみ半音下がっています。詳細はネットで調べていただければと思いますが、不思議な明るさの秘密はこの音階だったりします。中間で転調する部分では聞き慣れた「ドレミファソラシド」の音階に戻りますが、これは自然なメロディーを維持するために使い分けました。皆さんもご存じ、この「ドレミファソラシド」の音階はイオニアンスケールと呼びます。

名前がミクさんに似ているから使った・・・なんて理由ではありませんが、雪シリーズをこれだけ続けてくると似た曲ばかりになってきてしまうので、飽きられないためにも新しいことにもチャレンジが必要だと思ったのです。

歌詞について

楽曲紹介を書くとき、いつも歌詞については悩みます。と言うのも私は、歌詞は聴き手それぞれの解釈に委ねたく、この歌詞の意味は・・・と説明するのはあまり好きではないからです。ただ、こだわったポイントもあったりするので、その辺は書いていきたいと思います。

歌詞としては「儚さ」がテーマになっています。去年まではどちらかというと冬のイベントへの期待感だったり高揚感だったり、明るい曲ばかり書いていました。確かに私はそういうのも好きですが、幻想的な冬の明るさの中には「いつか消えてしまう」という儚さもあったりして、その一瞬の煌めきこそが美しく感じる理由だと思うことがあります。ずっと飽きずに冬の曲を書き続けてますが、私は色んな冬の魅力を伝えたいという思いで曲を書いているので、冬の美しさは一つだけじゃないということが伝われば嬉しいです。

雪ミクさんのテーマでもある「イルミネーション」をモチーフとして取り入れてますが、その言葉はあえて使わないようにしました。私のメロディーには英語的な響きよりも日本語的な響きが合う気がしていて、またカタカナ英語も個人的にあまり好きではないので、今回は日本語のみで作詞しました。海外の方にとっては「日本語の独特の響きが好き」という方もいるみたいで、ミクさんのSoftライブラリは日本語に特化した歌声なので、日本語で行こうと決めていました。

日本語は日本が誇る文化の一つなので、日本語の響きを大切にした歌がもっと増えてくれると嬉しいな、と思う私なのでした。

最後に

気軽に外出できないこの状況下ですが、せめて音だけでも幻想的な冬の風景を感じていただけたらという思いで制作しました。いつか自由に旅行などができる世の中になったら、ぜひ北海道にも遊びに来てください。その日が来るまでは私達はできることから頑張って、この苦境を乗り越えていきたいですね。

 

NEUTRINOオリジナル曲『キズナリモート』の紹介と、コロナ禍と

はじめに

東北きりたんのオリジナル曲ができたので簡単に楽曲紹介を書いてみます!ミクさん以外のシンガーの紹介記事を書くの、意外なことに初だったりします。(ささらちゃんの楽曲紹介もいつか書きたいですね・・・)

東北きりたんです

「NEUTRINO」という音声合成ソフトをご存じでしょうか。もしかしたら「AIきりたん」の愛称のほうが馴染みがあるという方もいらっしゃるかもしれませんね。東北を応援するキャラ「東北ずん子」の妹、「東北きりたん」の歌唱データベースが使われています。今回の曲では「AIきりたん」に初めて歌をお願いしました。

なぜ東北きりたん?

なぜ、ミクさんでもささらちゃんでもないのか。

キズナリモート』は歌詞にもあるように、このコロナ禍で大切にすべきことを歌っています。不要不急の外出自粛が叫ばれる中、「家で過ごす時間」が見直されるきっかけになりましたね。東北きりたんはかなりインドア趣味のようでして、「おうち時間」の大切さを歌うのならまさに彼女だと思い、歌をお願いしました。

「AIきりたん」が登場したのが2020年2月ごろ。ちょうど新型コロナウイルスで世間がざわつく中、音声合成界隈に明るいニュースを運んで来てくれたのが彼女ということもあり、運命的なものを感じたのも理由の一つです。

AIシンガーって?

VOCALOID」など従来の歌唱ソフトでは、歌手の歌い方や特徴などを細かく打ち込む必要がありました。いわゆる「神調教」は、これらの調整が上手い曲に対して呼ばれていました。

一方AIシンガーは、AIが膨大な数の歌声を聴くことで、その歌い方や特徴などを機械学習していきます。「神調教」の部分は歌唱ソフトのほうが勝手にやってしまうのですね。これがAIシンガー(AI歌唱)なのです。

以下はNEUTRINOに渡した実際の楽譜です。読み取るのはメロディー、歌詞、休符、ブレスくらいなもので、歌い方なんて一切書いてません。なのに、こんなに上手に歌ってくれるのです。すごい技術ですよね。


※メインボーカルに使用したMusicXMLファイル。動画の説明文にあるURLからダウンロードも可能

この曲がうまれたきっかけ

当初はソーシャルディスタンスとかステイホームとかを歌う曲になる予定でしたが、途中から相手を思いやる大切さを綴った歌詞になっています。ちょっとその経緯を書いてみます。

コロナ禍によって今までとは違う生活様式を強いられるようになりました。もちろん私も例外ではありませんでしたが、元々インドア派ということもあり、不要不急の外出を控えることはそこまで苦ではありませんでした。

私を一番苦しめたのは、コロナ禍で人同士の衝突を伝えるニュースでした。感染した人へのいじめ、遠方から移動してきた人への嫌がらせ、営業している店舗への脅迫・・・苦しい状況下で助け合わなければいけないはずなのに、お互いを攻撃しているのを見て私はとても悲しくなりました。感染対策ももちろん大切ですけれど、それ以上に「他人を思いやる気持ち」の重要性に気付かされました。

そんなわけで、「外出自粛しましょう!」とか一方的に呼びかけるような歌ではなく、コロナ禍で心が疲れてしまった人にそっと寄り添いたい、やさしい歌に仕上げることを意識しました。

キズナ」について余談

余談ですが「キズナリモート」という変なタイトル、これを翻訳するときに困ったのですが、中国語には「絆」に該当する言葉がありませんでした。

中国語で「絆」は束縛するものとか、動物を結ぶ綱とか日本語のそれとはまったく違う意味らしいのです。そこで「Kizuna遠程」と、日本語そのままで記載することにしました。これであれば日本語の響きがそのまま伝えられますし、意味も損なわれずに済みます。

英語についても「Kizuna Remote」と、中国語に倣って「絆」はあえて訳さずに表記しています。(英語では「bonds」などと訳すこともできます)

最後に

この曲はいつか忘れ去られてしまうかもしれませんが、それはこのような曲なんて必要ない世の中になったときなのかもしれません。一日でも早くそんな日が来ることを私は願っています。

ただ今だけは、他人を思いやる大切さを忘れずに過ごしていたいものですね。