しゅいその「140文字だけじゃ伝えられない思い」

しゅいそが作った動画作品や好きなものを紹介します

初音ミクオリジナル曲『スノーホルンコンチェルト』の裏側と、ホルンという楽器について

はじめに

私は2017年以降、毎年冬の曲を作る課題を自らに課しているのですが、今年の雪ミクは「ホルン」がモチーフということで「これはぜひ作らねば」と思っていました。というのも、昔に吹奏楽をやっていたとき私はホルンを担当していて、運命的なものを感じずにはいられませんでした。

雪ミクさんのことについては去年の下記記事を見ていただくとして、ここでは制作の裏側と「ホルン」という楽器について書いていきたいと思います。

初音ミクオリジナル曲『雪の国からのプリンセス』の裏側と、雪ミクへの想いについて

「ホルン」という楽器について

一般的に「ホルン」と呼ばれる楽器は正式にはフレンチホルンのことを指していて、オーケストラや吹奏楽などで用いられる金管楽器です。

見た目は何といっても丸く巻かれた管が特徴的で、その長さは約2メートルほどあります。

他の金管楽器に比べて柔らかいその音色も特徴的で、鋭い金管楽器の音と、柔らかい木管楽器の音との橋渡し的な役割をすることが多いです。木管五重奏では木管楽器に混じってホルンが使われており、木管楽器とも相性が良いのです。

花形のトランペットとかに比べると少し地味な印象のホルンですが、その仕事は意外と多忙です。和音でロングトーンを演奏するかと思えばマーチなどでリズムを刻んだり、主役たちの裏で対旋律や合いの手を演奏したり、時としてはホルンのソロなんかもあったりします。
色々こなせてしまう、万能な楽器なのです!

これはホルンに限らないのですが移調楽器と言って、ピアノでの楽譜の音とは異なる音が鳴ります。ホルンはF管と呼ばれ、ドの音がFになっています。Fはピアノでいう「ファ」の音ですね。(正確にはBb管も使われますが、ややこしくなるので置いておきます)
なので「ドレミファソラシド」をホルンで演奏するとFメジャースケールになります。最初は「ドなのにファ?」と戸惑いましたが、元々楽譜は読めるほうだったので割とすぐに慣れました。

「ホルン」をテーマにした楽曲制作について

最初にも触れたとおり、雪ミクさんのモチーフが「ホルン」ということで、フレンチホルンを使うことは最初から決まっていました。問題はそれをどう使うかでした。

雪ミクさんのモチーフはホルン以外にも「マーチングバンド」もモチーフとなっているので、「マーチ」という案もありました。ただ一般的なブラスバンドは必然的にトランペットが主役となり、あまりホルンが主役というイメージはできませんでした。

そこで「ホルンが主役の曲って何だろう」と考えたところ、楽器の音の魅力が存分に活かせる「協奏曲」で行くことにしました。ただ、普通に協奏曲を作っても面白くないと思い、そこに何か音楽的要素を加えられないかと色々考えました。(そういえば去年も、普通にバロック音楽を作っても面白くないとか書いてましたね)

話は変わりますが私の弟はメタルバンドが好きで、よくメタルの曲を流していました。
ツーバスといって16分でバスドラムを刻むものが多い中、3連符のノリの少し変わったメタルなんかもありました。それを聴いたとき、3連符のホルンのメロディとシンクロし「これだ!」と思い、協奏曲とメタルという組み合わせが生まれるきっかけとなりました。(そもそも「シンフォニックメタル」というジャンルがあるように、オーケストラとメタルは親和性が高いと思っています)

もちろんホルン吹きとしての経験も曲作りに活かしています。
ホルンによる合いの手、対旋律、そしてオケの前面に出てくる主旋律・・・ホルン吹きだったら絶対に演奏したくなる「おいしいフレーズ」をあちこちに散りばめてみました。

あと、ここで少し調の話をさせてください。
この曲の調はFメジャーですが、ミクさんの音域に合わせたという理由だけでなく、「ホルン」をテーマにしているというのも理由にあります。というのも上に書いたとおり、Fメジャースケールがホルンにとって演奏しやすい音域で、「無理なく演奏できる」というのも調を選択した要因の一つにあります。
ただホルンにとって、全体的に少し高めの音域になってしまいましたが・・・(私の曲を実際にホルンで演奏する方がいるかどうかは疑問ですが)

「ホルン」の音にこだわりました

「ホルン」をテーマにした楽曲ですから、もちろんホルンの音にはこだわりたいとは思っていました。
生音を使うという手もありましたが、ホルンは個人で所有するには高価でして、安いものでも20万円ほどします。その上、練習環境や録音環境の問題もあり、生音は現実的ではありませんでした。

そこで私が考えたのが「ホルンの音が出せる別の楽器」でした。動画の説明文に書いたのでお察しの方もいらっしゃると思いますが、ここで活躍するのが「ウインドシンセサイザー」です。

私が使用したのはAKAIEWI USBという製品ですがリコーダーのような形状をしています。
指でタッチセンサーを押さえることにより音階を入力し、ブレスセンサーに息を吹き込むことで音の強弱を入力できます。つまり、「吹く」タイプの電子楽器ですね。学校で習ったリコーダーと良く似た運指なので、一日ですぐ吹けるようになりました。(もちろん楽曲でまともに使えるようになるために、何度も練習を重ねましたが)
ホルンとは違って僅かな息の量で鳴ってくれるので、ホルンでmfを吹く感覚で息を吹き込んだらEWIではfffで鳴ってしまうということがあり、息の加減が一番難しかったです。

EWIと一緒に使用したのが、SamplemodelingのFrench Horn & Tuba 3という製品です。ウインドシンセサイザーとセットで使用すると、他のホルン音源とは比べ物にならないくらい豊かな表現で鳴ってくれます。正直、私はこれよりリアルな鳴り方をしてくれるホルン音源を知りません・・・。

「ホルン」だけでなく「協奏曲」にもこだわりました

私は昔からオーケストラが好きなので、クラシックの曲などを色々と聴きあさり「協奏曲」らしくなる要素を研究しました。モーツァルトのホルン協奏曲なんかを好んで聴きました。

実はこの曲には「サビ」がありません。その構成を書くと以下のとおりです。

Intro-A-B-A-B-A-B-A-C-A-A

こう書くと単純ですが、ほとんどAとBの繰り返しなんですね。
主題(A)を繰り返しながら、間に別の旋律(B、C)を挟んで進行していくというのは、古典的な構成で「ロンド形式」と呼ばれます。もちろん、この楽曲は厳格なロンド形式とは大きく異なりますが、曲の構成にも「協奏曲」らしさを取り入れてみました。

協奏曲部分はホルン+ストリングス4部という実にシンプルなパート構成になっています。本来ならここに木管パートを加えるべきなのでしょうけど、あえて入れてません。スケジュール的に厳しいというのもありましたが、木管はバンドサウンドにかき消されそうなのと、音をすっきりとさせたかったというのが理由です。

もちろんそれ以外にもこだわりがあります

「協奏曲」だけでなく、「メタル」の部分も私なりにこだわりました。
前述のとおりクラシックを聴くだけでなく、シンフォニックメタルなんかも聴きながら「メタル」っぽさの研究もしました。
ドラムは去年投稿の『いちご大福のうた』から導入したドラム音源が活躍してくれてますね。いい音で鳴ってくれるので助かってます。

楽曲のアイディア自体は「協奏曲」が先にありましたが、あくまで土台はメタルですので、楽曲は先にメタルの部分から作っています。
そのメタルにストリングスを乗せ、最後にウインドシンセで演奏したホルンを乗せる、といった手順で制作しています。

メタルにしては割とゆったりしたテンポですが、これは協奏曲に寄せた部分です。
メタルだともっと早いテンポの楽曲が多いのですが、こちらに寄せるとどうもホルンのフレーズに無理が生じてしまうのです。
こういうゆったりしたメタルって数は少ないと思いますが、たまにはこういうのもあっても良いのではないでしょうか?

メタルでも協奏曲でもありませんが、ラスサビ前に遊びでケルトっぽいパートが挿入されます。
実を言うと、ケルト風の冬曲というアイディアがあったのですが、色々あって没になってしまいました。
遊びでそれを取り入れたところ、ちょうどケルトのジグのリズムと上手くハマったのです。
こうして「ケルト風冬曲」は、ケルトパートという形で日の目を見ることになりました。
楽曲のアクセントに民族音楽を取り入れるケースは世界的にも意外と多いので、ケルトパートも意外と溶け込んでいるのではないでしょうか?(そういえば過去には和ユーロビートなんてもやりましたね)

歌詞についても私なりにこだわりがあります。
曲名のとおり冬の曲なのですが、雪ミクさんもモチーフになっていて、その歌詞に雪の祭典という要素も加えてみました。雪の祭典ということで、同じく雪ミクさんをモチーフにした『雪の国からのプリンセス』という昨年の楽曲との結びつきも意識しています。
今回の歌詞中に登場する『前の冬「また会おう」 約束したから』というフレーズは、「もう一度目の冬 きっとまた会おうね」とかかっていたり、「白い芸術」「Festival」「雪どけの 季節来るまで」なども去年の作品を意識していたりします。

その歌詞を歌い上げるのは、今回もSoftミクさんです。私が書く冬曲では毎回Softミクさんに歌ってもらっています。
なぜ冬曲にSoftミクさんなのかは、上にも書いた『雪の国からのプリンセス』の紹介記事に書きましたので、そちらを読んでみてください。
メタルサウンドといえばSolidミクさんが定番なのですが、対照的に歌詞はとても優しい歌なので、私としてはSoftミクさん以外考えられませんでした。

動画のちょっとしたネタですが、冒頭に登場する楽譜、もちろん適当に書いた楽譜ではなく、そのまま楽曲のイントロ部分になっています。もし興味があれば、打ち込んでみるのも良いかもしれないですね。(ホルンのみ「in F」で書かれており、実音は完全5度下で入力する必要があるのでお気をつけください)

最後に

去年の『雪の国からのプリンセス』は「雪ミク愛」をひたすら詰め込んだ曲でしたが、今回の『スノーホルンコンチェルト』は曲名の通り「ホルン愛」を詰め込んだ曲です。これをきっかけに「ホルン」という楽器の魅力が少しでも伝わったのなら、私としてはこれ以上ない喜びです。

この曲作りながら私も、久しぶりに本物のホルンが吹きたくなりましたよ!